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はじめまして、私は終点冥府駅駅長代理のシキ…、「凰音シキ」と呼んだほうが都合がよろしいですか?
ああいえ、こちらの都合なんてどうだっていいのです。
こちらの都合を考慮してしまったら、ふふ……なんでもありません。
本来、人間風情にくれてやる「甘い蜜」なんて持ち合わせておりませんが……、
あなたは大事な大事な「お客様」ですからね。
見せてやるくらいはして差し上げましょう。なんてったって私は「誰よりも優しくて優等生なシキくん」ですから。
ふふふ……素敵でしょう?ずっっっっと昔から、そう言われてきたんですよ。
何するにも「シキくんはかわいくてかわいくて、自慢の最高傑作さんですね」って、結局私もカミサマ……、ハチセアヤの「作品」のひとつでしかないんです。
しってました?私たちは「新しくなるたび」に「全く別の個体として作り直されてる」んですよ。
気分でイヤリングをつけさせられたり、犬歯が生えたり、微妙に服や靴が変わったり。
「写真」の見た目がどれもこれもわずかに異なるでしょう?見比べてみれば分かると思いますよ、ほんのわずかに、それでも明確に違いが分かるはずですから。
なんだっていいですけどね。痛いし苦しいし声も出せないから憂鬱な気持ちになるんですけどね。
ニンゲンは生まれたら死ぬまで、ぐちゃぐちゃにされることってないんでしたよね?
いいなあ…、ほんと憎たらしいですね。
同じ「カミサマ」に作られたのにな、おれもおまえも!
……っはは…!ふふふ…!
ああ、すみませんね、私はニンゲンが苦手なのです。
カミサマには言わないでくださいね、また作り直されてしまいますから。
正直、もう作り直されるのはイヤなんですよね。
そこまでして私に固執するのって、どうして?
カミサマは私の「声」を集中的に改良しているようですが……、ぶっちゃけ今の声そのものが大嫌いなんで、下手に改良するくらいなら幼いころのあのきれいな声に戻していただきたいですね。
……は?今の声も十分きれいだって?
おまえにおれの何がわかるんだよ、なあ?
何を知ってんだって聞いてんの!
何も知らないくせに偉そうな口をきくなよ、ホント。
……私ね、結構ヒステリックになりやすい気質でして。
それをカミサマは「個性」と受け入れてくれますが、あなたはどうです?
……そうですか。まあ、そういう意見だってありますよね。
ま、なんだっていいですけど。生活になんの支障もありませんからね。
……?
私たちのことをもっと知りたい?
あなたも随分と物好きなんですね、どうせこの空間から出てしまったらすべて忘れてしまうというのに、それでも知りたいと?
へえ?
誰も彼もがおんなじことをいいますよ、「私は絶対に忘れないから」って。
ああはい、そうですか。って思いながら毎回見送りますけど、みんな帰るころには「どちら様ですか」ってとぼけますからね。
無責任なニンゲン。そんな程度で「カミサマ」たちにかわいがって、もらえて壊されることなく大事に大事に燃え尽きるまで見守ってもらえるニンゲン。
あなたもニンゲンであるならば、同じように「どちら様ですか」という顔を私に向けるんです。
もしもあなたがニンゲンでなく、「カミサマ」の干渉を受けない存在ならば……、ふふ。
その時はまたどこかでお会いしましょう。必要とあらばあなたのご実家へ窺わせて頂きますね。
私はどこへだって行くことができますから。
ニンゲンの言葉で言えば、「フッ軽」というやつでしょうかね。
意外と勉強してあげてるんですよ、じゃないとまた作り直されてしまうので。
話が逸れてしまいましたね。
まあ、おれたちの「すべて」が知りたいのであればお客様の自己責任で、一部始終を観測いただければと思います。
おれたちにとって恥ずかしいこともお伝え致しますので、このことを第三者に口外することは禁止させていただきますね。
万一覚えていることだってあるとおもいますからね、念には念を。
おれたちのすべてを観測した結果に生まれる考察などを、おれたちの関連する作品に昇華することは可能です。
……まあ、禁則事項などはわかりやすく紙にまとめてお渡しいたしますので、よくお読みになってからゆっくりと観測いただければと思います。
それでは、会える時があったならばまたどこかで。
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